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5月17日

2019.05.17 Friday 11:54 | comments(0) | kpmi0008

『母乳には赤ちゃんが分解できない成分が入っている』

 これまでに「初乳」に関する記事を2件投稿しましたが、今日は、授乳期全般にわたる「母乳」を特徴付ける成分について紹介しようと思います。そして、標題にしましたように、その成分は赤ちゃんが分解できないものであり、即ち直接的に利用できないものです。そのようなものが、なぜ母乳に含まれているのか…

 その成分名を先に述べておきますと、それは「ミルクオリゴ糖」です。正式には「ヒト・ミルクオリゴ糖」と呼ばれるものです。これは母乳1リットル中に10グラム〜20グラムも含まれています。それを構成している単糖の分子種や、結合する順番や、全体の分子数を変えることによって膨大な組み合わせが可能になりますから、ヒト・ミルクオリゴ糖の種類は大変多く、100種類以上が同定されています。

 さて、冒頭に述べましたように、このヒト・ミルクオリゴ糖は、赤ちゃんが自分の消化酵素によって分解できないため、利用することができません。では、赤ちゃんが使えない成分がなぜ母乳に含まれているのでしょうか? その答えを先に言うならば、腸内に宿るビフィズス菌に与えて増殖させるためなのです。即ち、赤ちゃんのためではなく、腸内細菌のためだということになります。

 赤ちゃんが腸内にビフィズス菌を増やす最大の目的は、出産時や哺乳時に外部から入り込んでくる大腸菌や腸球菌などが、赤ちゃんの腸管内に増え過ぎないように調節するためです。これは生物界に一般に見られる生存競争の仕組みによるものであって、いわば自然な静菌作用です。掲載したグラフを見ると、ビフィズス菌が増え出すことに合わせて他の細菌が減少していくことがよくわかります。これは、出生後の2日目〜5日目あたりに顕著に見られる劇的な変化です。

 仮に、出生後の赤ちゃんにヒト・ミルクオリゴ糖を与えなかったらどうなるでしょうか? 母親から譲り受けたビフィズス菌は腸管に達して増殖を始めようとしますが、エネルギー源が入って来ないため増殖できません。そうすると、大腸菌や腸球菌が増え過ぎて、赤ちゃんの腸の健全性が失われ、赤ちゃんが健康に育たなくなります。

 母乳中には乳糖などの他の糖質が含まれていますが、では、ビフィズス菌はこれを利用できないのでしょうか? 実際には利用可能だということですが、これは赤ちゃん自身が分解して吸収してしまうため、ビフィズス菌が棲息する小腸下部〜大腸まで届かないのです。だからこそ、赤ちゃんが利用できないミルクオリゴ糖がわざわざ作られ、それが母乳中に配合されているのです。まさに、驚くべき仕組みだと言えます。

 この一件から感じることは、母乳というのは「赤ちゃんのためのもの」というよりは、「赤ちゃんと腸内細菌のものである」と捉えるのが正解だと思われることです。そして、ヒトの体の進化、母乳の進化、腸内微生物叢の進化は、それぞれが一緒に進化してきた証でもあります。生物学的には「共進化」と呼ばれている、自然界に普遍的に存在している現象です。

 私たちは人間が作り出した文明に溺れがちですが、大自然が作り出したものは、その何倍も奥深く、何倍も緻密であり、何倍も巧妙であることに気付かされます。

<追記>母乳を飲まなくなったらビフィズス菌はどうなるのか? それは、前回に投稿しましたタケノコ中のキシロオリゴ糖や、その他にも各種の植物性オリゴ糖によって生かされることになります。

 

 

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