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5月17日

2019.05.15 Wednesday 17:09 | comments(0) | kpmi0008

『「初乳」に隠された秘密 〜その2〜』

 今日は初乳に関する第2話を紹介したいと思います。初乳に特に多く含まれている成分として、前回は免疫抗体や貪食細胞を採りあげましたが、今日は微量必須ミネラルの一つである亜鉛に注目してみようと思います。

 掲載した棒グラフは、京都大学学術情報リポジトリから引用したものです。縦軸に「母乳中の亜鉛濃度」が採られており、横軸に「授乳開始後日数」が採られています。従って、一番左端の棒グラフは、いわゆる「初乳」中の亜鉛濃度が示されていることになります。

 グラフを見て判ることの一つは、授乳初期の母乳(初乳)ほど亜鉛濃度が高いことです。これは、赤ちゃんの亜鉛要求量が高いことの表れであると解釈することができます。実際に、体重あたりに換算すると、赤ちゃんの亜鉛要求量は成人の2〜3倍であると言われています。そのため、お母さんが意識していなくても、赤ちゃんの成長過程に合わせた亜鉛濃度の調節が、母乳産生時に、いわば自動的に行われているということです。人工乳では、ここまで細かな濃度調整は難しいでしょう。

 グラフから判ることの二つ目についてですが、赤文字および赤色破線で示されているレベルが血清中の亜鉛濃度の正常範囲です。この濃度に比べて、初乳中の亜鉛濃度は相当高く、これは即ち、母乳が作られるときに血清中の亜鉛が母乳中に濃縮されることを意味しています。これは、たとえ満足できる量の亜鉛を摂取できていないお母さんであっても、お母さんの分の亜鉛を使ってでも赤ちゃんのために亜鉛を供給しようとする表れです。しかし、お母さんの亜鉛摂取量の低迷が続けば、もちろん限界はすぐに来ることになります。

 ところで、濃縮という現象は、あるものから水分のみを蒸発させたり、或いは水だけ濾過して捨てれば、勝手に濃くなって濃縮されることになります。ただ、その場合の弊害は、水以外の全てのものが一様に濃くなってしまうことです。そこで、母乳中の亜鉛濃度は、別の機序によって高められています。それは、亜鉛トランスポーターと呼ばれる乳腺中の輸送体によって、亜鉛のみが能動的に血清中から母乳中に送り込まれることに依っています。

 赤ちゃんが低亜鉛状態になれば、それが極度であれば命を存続させることができなくなります。或いは、かろうじて生きられる程度の低亜鉛状態であれば、多方面にわたる成長障害を来すことになります。もっと軽度の亜鉛不足なのであれば、特に皮膚の障害や下痢が起こりやすく、免疫機能の低下による感染症、アレルギー性疾患などを起こしやすい体質として育ってしまうことになります。現代日本において、そのような症状を示す赤ちゃんがいるならば、亜鉛不足である可能性を疑ってみることが重要であると思われます。

 以前のFacebook記事において『特にスポーツ選手は亜鉛欠乏性貧血になりやすい』を投稿しましたが、今回のお話は、赤ちゃんを体内に宿し、授乳しなければならない立場のお母さんは、赤ちゃんが亜鉛不足にならないように十二分に対策をしなければならない、というお話になります。

 一般女性における亜鉛の1日推奨量は8mg程度とされていますが、妊婦さんの場合は12mg、授乳中では13mgとされています。しかし、特に亜鉛摂取に気を配らなければ平均な食事では7mg程度の摂取量になっているようです。母体の乳房は、必死になって血清中の亜鉛を母乳中に濃縮しようとしますが、何にでも限界があります。そして、上述したように亜鉛を濃縮する輸送体に遺伝子変異を持つ場合もあるわけであり、まだ見出されていない遺伝子多型を持っている可能性も予想されます。そのような場合は、お母さんが推奨量の亜鉛を摂取していたとしても、母乳における亜鉛の濃縮率が高まらず、赤ちゃんが亜鉛不足に陥る可能性が出てくるわけです。

 以上のことを手短にまとめておくならば、妊婦さんや授乳中のお母さんの亜鉛必要量は通常よりも多いこと、多く摂っていたとしても亜鉛トランスポーターに遺伝子変異や遺伝子多型を持っている可能性もあるため、安全を見込んで、日頃から十二分量の亜鉛を摂取しておく必要があるということになります。

 

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