5月13日
2019.05.13 Monday 17:39 | comments(0) | kpmi0008
『「初乳」に隠された秘密 〜その1〜』
母乳というのは、赤ちゃんにとっては単なる栄養源ではなく、大変多くの機能を内蔵した多機能物質であると言えます。特に「初乳」と呼ばれる母乳中には、他のものでは代用できない、掛け替えのない機能性成分がいっぱい入っています。
ちなみに、「初乳」が作られる時期は随分と早いです。妊娠後半期に既に作られていて、乳房内に備蓄されています。これは、早産などで、いつ産まれても対応できるようになっていると捉えることもできるでしょう。そして、出産後の数日間(一般的には3〜5日間)で出切ってしまう感じになります。この間にも新しい母乳が追加産生されていきますから、初乳に独特の成分は徐々に薄まっていくことになります。
さて、初乳に独特の成分、即ち、多機能を実現する成分にはどのようなものがあるでしょうか。最も多くの人が知っているものとしては、免疫抗体(免疫グロブリン)を挙げることができるでしょう。特にIgAが多いわけです。その他には、生きた細胞もたくさん入っています。その多くは貪食細胞(好中球や単球)です。抗体によるものが、いわゆる液性免疫であり、貪食細胞によるものが細胞性免疫です。両方ともしっかりと含まれていて、赤ちゃんを感染からしっかりと守っています。
初乳を冷凍保存して後から飲ませることもしばしば行われますが、この場合はどうなるでしょうか? 栄養成分的にはほぼ保存できそうな気がします。しかし、最もダメージを受けるのは、初乳中の生きた細胞たちです。一般家庭における一般的な冷凍方法では、各種の貪食細胞が死滅してしまいます。そうすると、赤ちゃんの口から侵入した病原菌やウイルスを退治する能力が半減してしまうことになります。では、人工乳ではどうでしょうか? 人工乳に生きた細胞を配合することは極めて困難ですから、赤ちゃんを感染から守ることが非常に難しくなります。
ここでお気づきの方もいらっしゃることと思いますが、赤ちゃんのために有用な細菌もいますから、それらは殆ど攻撃されずに腸管までたどり着けるようになっています。
話を戻しますが、では何故このような免疫関連成分が初乳に仕組まれているのでしょうか。それは、現代の病院における出産および保育環境のように、消毒が行き届いた場所で出産することなどは想定されていないからです。即ち、大自然に囲まれた地域に住む先住民族の出産現場のように、多くの微生物に囲まれて産まれ、成長することが前提になっているからです。その過程において、どうしても侵入や増殖を許すわけにはいかない微生物のみをお母さんから譲り受けた免疫系によって排除する仕組みになっています。
現代の赤ちゃんが産まれる環境や育つ環境は、赤ちゃんにとっては余計なお世話を強要される環境であり、初乳に仕組まれた免疫機能を無駄にする環境であり、後に共生することになる常在微生物叢を貧弱なものにする環境でもあります。これらの結果として起こっていることは、アレルギー体質などという免疫系の異常であったり、心身の脆弱性であったり、或いは成長障害や発達障害であったりします。
今日のところは、母乳というのは単なる栄養源ではなく大変多くの機能を内蔵した多機能物質である、ということの一端を感じ取っていただければ幸いです。母乳には他にも多くの秘密が隠されていますから、後日にまた別のことを紹介させていただこうと思っております。