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11月22日

2017.11.22 Wednesday 17:31 | comments(0) | kpmi0008

写真には3種類の米が写っていますが、左端は普通の米です。そして、中央の少し黄色いのは「ゴールデンライス1」、右端のオレンジ色のは「ゴールデンライス2」と命名されたものです。なぜ黄色やオレンジ色をしているかというと、β-カロテンが含まれているからです。
もちろん、本来の米にはβ-カロテンは含まれていません。イネであっても緑色の葉や茎にはβ-カロテンなどのカロテノイドが含まれていますが、それが米(胚乳)の部分に運ばれることもありません。そもそも植物におけるβ-カロテンの役割は、光合成の時にクロロフィルと共に太陽光エネルギーを捕捉することと、光によって葉緑体で生じる活性酸素を消去するためですので、葉緑体を持たず光合成をしない米にはβカロテンは不必要です。ですから、米にβ-カロテンが含まれている必要性は無いということになります。
では、そのような米に何故β-カロテンを? という疑問が生じることでしょう。それは、米を主食とするアジア地域の貧困層におけるビタミンA欠乏症を救うためだとされています。WHOの報告によりますと、アジアの全域で生後6か月から5歳までの約170万人の子どもがビタミンA欠乏症に瀕しており、中には失明の危機に曝されている子どももいるといいます。彼らは米を食べることは何とか出来ますが、貧困のために、ビタミンAやβ-カロテンを含む他の食材を入手することが難しいというわけです。そこで、米にβ-カロテンを作らせようとしたそうです。
その方法は、ゴールデンライス2では、β-カロテンの合成に係わる4種類の酵素を発現させる遺伝子を、トウモロコシと、ある種の微生物から取ってきて、それをイネのDNAに組み込んだのです。いわゆる遺伝子組換えの技術によって、β-カロテンを含む米を作ることが可能になったわけです。
このゴールデンライス2の生産は、今から12年前の2005年に成功しています。しかし、未だに流通には至っていません。その理由は、この品種は遺伝子組換えによって生み出された品種だということで、遺伝子組換えを強硬に反対するグループによって制圧されているからです。遺伝子組換えに関する是非の議論は、科学的な見地からは「人を交通事故に遭わせるリスクの高い自動車の開発を許すか否か」と同レベルの議論だと言えます。遺伝子組換えの技術は、今やバイオ関連の専門学校でも実験・実習を行う、普遍的かつ基礎的な技術になってきています。どのような新しい技術であっても同じことであって、その技術をどのように利用するかが問題であって、根底から否定する時代では無くなってきているのも事実です。そのような経緯故に、ゴールデンライス2は、現在も各種の安全性テストや遺伝的な安定性などの試験が継続されている段階だということになっています。
一方では、別の面からの議論も続いているようです。例えば、ビタミンA欠乏の解消を米に求めるのではなく、ビタミンAやβ-カロテンを多く含む食品(各種の動物性食品や、国内で採れる野菜や果物など)を供給できるようにすることが最も正攻法だという意見です。
このような現状を見ていて感じることは、遺伝子組換えに反対しているグループの人たちや、他の食材を供給すべきだと言っている人たちの言い分には正しい部分もあると言えるかもしれません。しかし、ビタミンA欠乏に直面している子どもの写真を見てください。一刻を急がないと、犠牲になる子どもたちが今も増え続けているのです。もしあなたがこの子の親ならば、「何でもよいから、ビタミンAの供給源になるものを早く食べさせてやりたい」と思うことでしょう。議論することは結構なことでしょうが、解決するための手段が目の前にあるのなら、それらを早く実行に移し、子どもたちの救済を最優先に考えて欲しいと願うところです。

 

 

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