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9月15日

2020.09.15 Tuesday 14:32 | comments(0) | kpmi0008

『全生物に愛を注ぐ』

 子どもの頃、水田近辺の用水路には必ずと言ってよいほどメダカが泳いでいました。しかし今、同じ場所を訪れても、もうメダカの姿はありません。メダカが棲んでいる場所の近辺には、フナもいました。しかし今、同じ場所を訪れても、もうフナの姿はありません。

 特にメダカは、渓流を含めた本格的な川に棲む魚とは異なり、人間が作り出した水田というものの存在があったからこそ、繁栄してきた種です。そのため、私たちにとって最も身近な魚だったわけです。「めだかの学校」という有名な童謡があることが、そのことを物語っています。

 あの小さな体では、すぐに他の魚に食べられてしまいそうです。そこで、比較的高い水温に耐えることが出来る能力を身に付け、他の魚が侵入してこられない水田周りに逃げ込んできたのです。水田や用水路は夏場に水温がかなり高まるため、他の魚は棲めませんでした。やがて、やっと安住の住処を見つけたメダカに、最大の危機がやって来ることになりました。それが、稲刈りの機械化です。

 現代の水田は、稲刈りに機械を使うようになったので、夏が過ぎれば水を抜くようになりました。メダカは、繁殖時に用水路から水田内に移動し、水田内で卵を産むことが多かったのですが、それが不可能になってしまったのです。産卵場所がなくなれば、増えようにも増えることができません。

 更には、水田の水を抜くことに併せて、夏場以降には用水路への給水も断たれることが多くなりました。これでは、棲む場所さえも奪われてしまうことになります。一度水が枯れた用水路に、春になってから再び水が流されても、そこにメダカが居るはずがありません。

 メダカの危機は他にもありました。たとえ、夏場でも水が流れ続ける用水路があったとしても、そこにはメダカの主なエサであるミジンコが居なくなったのです。その大きな原因は、農薬、化学肥料、用水路の護岸化などです。農薬が毒なのは誰が考えても直ぐに理解できますが、化学肥料がダメな理由は、ミジンコの餌になる微生物が育たないからです。護岸工事がダメな理由も同様であって、微生物を主とした生態系が成り立たないからです。

 メダカを絶滅に追いやろうとしている原因をまとめると、稲刈りの機械化、農薬の使用、化学肥料の使用、コンクリートを使った護岸工事が主原因だということになります。「人間が生きるためには、仕方ないではないか…」と、多くの人が考えてきました。だからこそ、メダカが絶滅寸前まで追いやられることになったわけです。

 日本において、今にも絶滅しそうな生物種、即ち「絶滅危惧種」は、環境省による最新の調査結果である「環境省レッドリスト2020」に掲載されています。このレッドリストは毎年のように更新されているのですが、更新される度に絶滅危惧種の数が増えています。例えば、2007年度では3,155種、その5年後の2012年度では3,597種、昨年度の2019年度では3,676種、今年度の2020年では3,716種となっています。どんどん増えていっています。この先、一体どうなっていくのでしょうか…?

 掲載した図の右上は、同じく環境省によって、2012年度の結果が分析されてまとめられたもので、絶滅危惧種の占める割合が赤色で表示されています。例えば、日本に棲む哺乳類の全種のうち、その21.3%が絶滅危惧種だということです。或いは、円グラフの左下は淡水魚類ですが、全種のうちの41.8%が絶滅危惧種だということです。これは、本当に驚くべき数字です。或いは、円グラフの右下は植物ですが、全種の約4分の1が絶滅危惧種です。こんなことがあってよいのでしょうか…。

 では、なぜ絶滅に追いやられているのか…ということですが、掲載した図の右下に、その要因がパーセンテージで示されています。これによると、最大の要因は、人間による「開発」だということです。53.2%ですから、半分以上は「開発」が原因だということになります。

 開発という語のイメージからは、かなり大規模な造成事業などを思い浮かべるかも知れませんが、上述したメダカの例を思い起こしてみれば、そのイメージは当てはまりません。一見、のどかな田園風景であっても、そこには多くの生物種を絶滅に追いやる開発が既に行われてしまっているのです。多くの人は、その些細な開発の弊害に気付かないのだと思われます。例えば、用水路をちょっとコンクリート化するだけで、生物が棲む世界を激変させてしまうことを…。

 生物を絶滅に追いやっている要因の第2位は「捕獲・採集」で、18.0%です。これも、「人間の仕業」です。第3位は「遷移進行・管理放棄」で17.5%です。これは要するに、何かをやり始めたものの、その後は放置しているということですが、これも「人間の仕業」です。第4位は「水質汚濁・農薬汚染」で9.8%ですが、これも「人間の仕業」です。第5位の「過剰利用」も「人間の仕業」、第6位の「捕食者侵入」も、人間が外来の肉食動物を持ち込んだ等の「人間の仕業」です。結局、全部、人間の活動が絶滅危惧種を作り出していることになります。

 では、私たちは今後、どのようにしていかなくてはならないのでしょうか…。それは、「自分たちのため」から、「地球に生きている全ての生命のため」へと意識を変えることだと思います。言い換えれば、地球に生きる全ての生き物に対する愛を深めることだと思います。そもそも、他の生物がどんどん死んでいくような場所では、人間自身も健康に暮らせるはずがありません。

 特に意識しなければならないことは、私たちがつい見逃してしまいそうな些細な部分にもしっかりと着目することだと思います。見えているものについては、その荒廃ぶりなどを直接知ることができますが、例えばコンクリート化することによって微生物が居なくなったことや、汚染された水が浄化されないことなどは、ボーッと見ていただけでは気付きません。そこに、落とし穴があるのだと思います。

 ヒトの体も含め、生物は偉大なる適応力を身に付けていますが、それは何万年とか何億年という気の遠くなるような期間において、世代交代を繰り返すことによって初めて獲得できるものです。何十年単位という短期間の変化には適応できません。そのことをよく知って、「開発」を美徳とする精神を、いまこそ根絶すべき時ではないでしょうか。

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